研究概要 |
本年度は、ニッケル及び非調質低合金高強度鋼の中間温度脆性について検討して研究を行った。とくに後者の中間温度脆性に関してはτ→α変態開始時のαが結晶粒界にフィルム状に析出することにより、粒界があたかも脆化したかに見える挙動をするという従来の説について詳細に検討し、その正否を明らかにする実験的研究を行った。注意深い実験手法により、脆化が最も激しい温度がフエライト(α)析出開始温度に対応することをつきとめた。このことは、αの析出は脆化の原因ではなく、αの増加とともに脆化が緩和されるということを意味している。さらに参考材料として5.6%のニッケルを添加し、荷重下の変態温度をいちじるしく下げた鋼を調整し、中間温度脆化を調査したところ脆化が最も激しい温度はα相の析出開始温度より高いことがわかった。このことから非調質低合金高強度鋼の中間温度脆性は、ニッケルをはじめとする他の面心立方金属・合金材料にみられるものと共通であることがわかった。つぎに、粒界われがこの脆化挙動の特徴であること、低応力レベルで顕著なことも、同じく面心立方晶多結晶材料と共通であることを確認した。低応力レベルでは活動辷り系の故が小さくなること、粒界で辷りの整合が破れボイドが形成されることが、粒界われの原因であろうと推定している。低応力で高温になると動的再結晶が可能になるが、この際の粒界移動が阻止されると脆化が顕著になることが確かめられた。このことは同時に行ったニッケルの中間温度脆性についての実験的検討からも明らかとされた。本研究で用いた非調質低合金高強度鋼は、Mn及びSξを含む市販鋼とNbとVとだけを添加した溶製鋼の二つであるが、前者は高温で析出するMuSにNbC,NbCN,VC,VCNが付着して析出し、粒界移動が活発化するのに対して、後者ではこれらの炭窒化物の析出がおこらず粒界移動が抑制され、熱履歴の最適化による脆性の回避は不可能である。
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