昨年度に引続き、今年度は、分光器の周波数範囲を更に下に広げ、4-18GHzを分光可能にした。また、観測された分子の双極子モ-メントの決定を行なうための電極を製作し、このための高圧電源も整備した。更に、パルスノズルの改良を行ない、ノズルの先端を500℃以上に加熱できるようにした。 これらの改良に基づき、水銀を含むファンデアワ-ルス錯体の分光を更に進めた。昨年度は、Hg・Ar、Hg・H_2O、およびHg・OCSのスペクトルの観測に成功したが、今年度は更に、Hg・Kr、Hg・Xe、Hg・CO_2のスペクトルを新たに観測した。水銀と希ガスを含むファンデアワ-ルス錯体として、上記のように一連の分子種が観測できたことで、単にそれらの結合距離といった構造論的な結果だけではなく、ファンデアワ-ルス結合そのものの物理的な機構を精密に理解するのに貴重なデ-タが得られた。また、OCSと類似の分子であるCO_2との錯体も観測でき、これらの錯体の分子間ポテンシャルの決定と比較も可能になった。昨年すでに観測に成功していた、Hg・H_2O錯体の場合、錯体内で水分子が興味深い内部運動をしているのが見いだされた。類似の構造を持つ錯体として、すでに報告のあるAr・H_2Oとの比較が興味深い。 上記の内部運動に関連して、更に対称性が高く、特異な内部運動をすると期待される錯体として、CH_4・HClを取り上げ、その分光を行なった。内部運動に起因する3つの状態のスペクトルを観測し、その性格、相対強度などを、群論に基づききれいに説明することができた。 パルスノズルとして500℃以上に加熱することができるものが完成したので、水銀以外の金属原子も分光の対象になる。特に、電子スピンの残存する開殻のファンデアワ-ルス錯体は、きわめて興味深いと考えられるが、それらの分光が今後の課題である。
|