本研究の目的は多配座問題の計算化学的研究に役立つ新しいアルゴリズムを開発し、実用的なプログラムを作成し、実験化学上の諸問題に適用することである。アルゴリズムとしては環式配座の系統的高速自動発生の為のコ-ナ-フラップ法を創始し、これを実行するためのプログラムCONFLEXを作成した。後者は第2版をQCPE(#592)およびJCPE(#21)から公開し、現在大幅な改良を加えた第3版がほぼ完成している。また、プロトンNMRのビシナ-ル結合定数を計算するためのKarplus式を徹底的に改良し。この計算式を実行するためのプログラム3JHHMをQCPE(#591)およびJCPE(#12)から公開した。 これら2つのプログラムを次のような溶液中の多配座問題に適用した。(1)天然物タキシンの基本炭化水素骨格トリシクロ〔9.3.1.0^<3.8>〕ペンタデカンの安定配座を多数見いだした。(2)たばこ葉害虫の性フェロモンであるセリコルニンの活性配座を推定するための手がかりとして全安定配座を発生、構造最適化した。(3)16員環マクロライド抗生物質Leuconolide Aの立体選択性合成の中間段階の環配座の反応性の関連を調べるため16員環ラクトンの安定配座38種類をすべて求めた。この計算には超大型計算機のCPUを約3時間使用したが、この経験からするとWoodwardらのエリスロマイシン合成における環化反応の解析が可能である。これは平成2年度に実行予定である。(3)パリトキシン部分構造のモデルとしてのアルディト-ル酢酸エステルの三次元構造決定のシュミレ-トを行い、改良Karplus式とMM計算を多用することによって、合成によらずとも92%の確率で成功する事を示した。
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