研究概要 |
植物の行なっている光合成を人工的に達成することは人類の長い間の夢であるが、現在に到るまでその夢は実現していない。その原因は生体での機能発現の機構が巧妙かつ複雑であり、加えて当該部分の生体試料を純粋に得ることが難しいなどによるためである。そこで本研究では生体系に近い低分子量の分子集合体を合成し、それらの光化学的諸性質を生体系と対比させながら詳しく解析することにより、生体系における電荷分離機能の本質を探り、得られた結果を基にして人工光合成用の最適分子を設計し、これらの分子触媒を用いて光エネルギ-の化学および電気エネルギ-等への変換の可能性を探り,併せてその様な材料を開発することを目的とした。まず、以前に我々が合成した多段階電子移動過程を含む化合物を脂質=分子膜中に固定し、これをテフロン製隔壁中の小穴の部分に装着し、隔壁の両側に酸化剤および還元剤それに電極を入れて試料にレ-ザ-光を照射すると光を照射している間だけ電流が流れた。すなわち、この様な化合物が光エネルギ-変換の触媒として働くことを見出した。つぎに、生体系では光エネルギ-変換機能を担う色素群はタンパク中に固定されていることを考慮してポルフィリン-キノン化合物に長鎖アルキル基を結合させ、これを牛血清アルブミン中へ固定化することを試み,化合物とBSAの複合体を単離することに成功した。しかしながら、この複合体においてはポルフィリンのけい光は著しく消光されて観測不能であり、タンパク中の電子移動速度を有機溶媒中のそれと比較検討することは出来なかった。最後に、光誘起電子移動に及ぼす色素間の相対配置の影響についてはこれまで適切なモデル化合物がなかったので不明であった。そこでポルフィリン環とキノン環とを堅固なスペ-サ-で結び距離と結合の数が同じで相対配置のみ異なる化合物を合成し、電子移動速度が相対配置に依存するとこを明らかにした。
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