フィトアレキシン(PAと略す)は、植物が病原菌感染等のストレスを受けた場合、新たに産生する抗菌性物質である。植物にPA生成を開始させ得る物質は、誘導性因子(エリシター)と呼ばれる。植物外部由来の外因性エリシターには、種々の報告があるが、植物自身由来の内因性エリシターや、PA生成の機構に関する分子レベルでの知見は、ほとんど無い。最近我々は、過酸化水素がPA生成の動的誘導因子であることを見出し、このことがナス科、ヒルガオ科、マメ科、およびアカザ科に共通の現象であることを報告した。以上の結果をふまえ本年度は以下の研究実績を得ることが出来た。 1.ナス科植物であるジャガイモを用い、その代表的なPAであるリシチンの生成量を指標としてカタラーゼ処理を行なった。PA生成因子として知られるアラキドン酸接種後、リシチンの生成量はカタラーゼ処理をしない時にくらべ大幅に減少した。このことは、過酸化水素がPA生成の"ひきがね物質"として働いていることを確証するものである。恐らく高等植物全般に共通の現象であろうと推定される。 2.ジャガイモを過酸化水素処理したところ、処理6〜9時間後にPAのエリシター活性が最大値を示すことがわかった。そこで大量規模での実験を行ない、水抽出部より(ジャガイモ10kg使用)内因性エリシター活性部74mgが得られた。現在さらに純化を続行している。 3.ジャガイモPA類の生合成経路を、チトクロームP450酵素活性阻害物質であるアンシミドールを用いてより綿密に検討した。リシチンの生成を指標として実験を行なったところ、リシチンの生成量は大幅に減少し且つリシチンの生合成前駆体を検出することができなかった。このことは、PAであるリシチンに至る水酸基化がチトクロームP450酵素によることを間接的に証明するものである。 4.ナス科植物で代表的なPAであり、生合成上および構造上極めて興味深いカブシジオールの全合成研究を行なったが完成していない。
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