植物が病原菌に感染した時に、植物自身が生産する坑菌性物質(フィトアレキシン、以下PAと略す)は、病原菌のそれ以上の侵入を阻止する防御物質と考えられている。PA生成を開始させ得る物質は、誘導因子(エリシタ-)と呼ばれる。植物外部由来の外因性エリシタ-には種々の報告があるが、植物内部由来の内因性エリシタ-や、PA生成の機構に関する分子レベルの知見は、ほとんどない。本年度は昨年度に引き続き、ナス科植物であるジャガイモの内因性エリシタ-を単離すべく実験を行った。昨年度、ジャガイモ(品種リシリ)を過酸化水素で処理後6時間放置したところ、水抽出部が保存期間に拘わらず、再現性よく最も強いエリシタ-活性を示すことを明らかにした。またエリシタ-活性を測定するにあたり、より迅速かつ簡便な方法として硫酸発色法を確立し、従来の生物検定法よりもより信頼度の高い検定を可能とした。エリシタ-活性部をメタノ-ル中、-20℃で2カ月保存した所、活性の低下が認められた。種々の単離条件の検討の結果、目的とする内因性エリシタ-の化学的性質は以下のように推定される。セファデックスG-15あるいはG-10のクロマトカラムで、ある程度の分離が得られることより、分子量は1000以下、またDEAEセファデックスに吸着し、またその活性を回収できなかったことより、エリシタ-は酸性の性質もしくは何らかの塩の影響を受ける可能性がある。さらにNMRスペクトルより非芳香族であること、また水-ブタノ-ル可溶部にエリシタ-活性が移行しないことより、高度に酸化された極性の高い化合物であると推定される。
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