研究概要 |
電極反応過程で生成する不安定中間体の溶存状態や反応性、さらに構造の解明は、複雑な電極反応の化学を統一的に理解していく上でも、また電解有機合成や生体系における酸化還元反応など、種々の観点から重要な課題になってきている。本研究において、このような短寿命ラジカル種の新しい構造解析法として、フロ-電解-共鳴ラマン分光法の開発とその基礎検討を行った。まず、前年度構築した電気化学的多機能分光測光システムの検出系についての詳細な評価を行い、イメ-ジインテンシファイア-増感冷却型イメ-ジセンサ-検出器の採用により、100ミリ秒以下の時間分解能で共鳴ラマンスペクトルの測定が可能であることを示した。次に、芳香族アミン類のN,N'-ジメチル-N,N'ジフェニルベンジジン(MPB)のフロ-電解酸化反応について検討した結果、定電位および定電流電解が定量的に進行することを実証した。このMPBの電解酸化過程における時間分解吸収スペクトルの測定から、MPBカチオンラジカル(MPB^<+->)およびダイカチオン(MPB^<2+>)はそれぞれ476nmと512nmに吸収極大をもつので、それぞれアルゴンレ-ザ-の488.0nmと514.5nmの発振線で励起して共鳴ラマンスペクトルを測定し、本法では、電解条件を選択するだけで簡単に、電荷状態の異なるMPB^<+->とMPB^<2+>の共鳴ラマンスペクトルを選択的に観測することができることを実証した。共鳴ラマンスペクトルは、可視吸収スペクトルに比べ構造を反映した鋭いピ-クを与えるために、異なった電荷状態が混在するような溶液中の状態の解析には非常に有効な手段である。さらに、600-700nmの波長域での共鳴ラマン測定を、クリプトンイオンレ-ザ-励起により行い、アントラセン誘導体カチオンラジカル、およびベンジジン誘導体ダイカチオンの共鳴ラマンスペクトルの測定を行った。今後、ラジカルイオンに及ぼす置換基効果について、反応論と構造論の両方の立場から議論を展開して行きたい。
|