糖質、アミノ酸ならびにそれらの類縁体を効率良く変換したり分子識別する方法の開発は医化学、生化学あるいは工業の分野から強く望まれている。本研究ではこのような観点から以下のような研究を行った。 まず、金属錯体による糖質の分子識別と変換のための手掛りを得るべく、典型的な置換不活性型錯体であるコバルト(III)配糖錯体の立体化学をNMR、電子吸収、円偏光二色性スペクトルにより詳細に検討した。特に、配位窒素原子上の水素原子の部分的重水素化による^<13>CNMRスペクトルの同位体シフトの観測により、配糖錯体のN-グリコシド結合の存在を確認した。また、^1HNMRスペクトルにおけるビシナル結合定数と、半経験的分子軌道法による計算から糖部分のコンホメ-ションを解明した。具体的な応用研究として、先に当研究室で見いだしたNi^<2+>イオンとN-置換ジアミンの協同効果による、アルド-スのC2エピメリ化反応を用いて、(1-3)、(1-4)および(1-6)結合の二糖類の還元末端の糖残基の変換を試みた。その結果、(1-6)結合の二糖類のグルコ-ス末端が、効率良くマンノ-ス末端に変換することが判明した。さらに、新たに合成した二糖の構造を、二次元NMRを用いて解明した。ついで、中央に非配位の水酸基を持つポリアミノポリカルボキシレ-トを配位子とする、コバルト(III)錯体はアルカロイドの一種であるストリキニンに対して、分子識別能を有することをX線結晶構造解析により、明らかにした。最近になり、エチレンジアミノを配位子とするコバルト(III)錯体と、グリシンの前駆体であるα-アミノマロン酸との反応を、詳細に検討した。その結果、反応条件(空気下、アルゴン雰囲気下、あるいは溶媒の違い)の変化により、酸化的脱炭酸によるグリシナト錯体、配位N原子と、アミノマロン酸の炭素原子が結合したα-ジアミン、およびカルビノ-ルアミン錯体が生成することも見いだした。
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