1.微生物から鉄含有のニトリル水和酵素を単離・精製し、本非ヘム鉄酵素の配位環境を明らかにするため、鉄-57(核スピンI=1/2)置換酵素や酸素ー17標識(I=5/2)水を用いて、電子スピン共鳴およびメスバウアー法によって検討した。その結果、天然ニトリル水和酵素はg_1=2.284、g_2=2.140、g_3=1.971にESRg値を与え、典型的な低スピン型鉄(III)部位であることを示唆している。非ヘム鉄錯体では低スピン鉄(III)は極めて珍しく、貴重な研究試料と考えられる。また、基質プロピオニトリルおよび阻害剤イソブチロニトリルが本酵素の鉄(III)部位に直接、結合してESRスペクトルを著しく変化させることが観測された。他方、本酵素反応の生成産物であるフロピオンアミドの添加は、ニトリル水和酵素のESRスペクトルに全く影響を与えなかった。ポルフィリンおよびブレオマイシンの低スピン鉄(III)錯体のESRパラメーターの比較から、天然ニトリル水和酵素の鉄活性部位は4個の窒素原子(平面配位子)、1個の硫黄原子(軸配位子)および1個の水(軸配位子)の配位によって構成されていることが予想される。確かに、本酵素の鉄(III)部位における水の配位は、酸素の同位体の使用によるESRシグナルの広幅化から支持された。ニトリル水和酵素の珍しい低スピン型鉄(III)部位は、メスバウアースペクトルからも確認された。 2.イミダゾール基とチオール基を配置基とする4N1Sドナー型の低分子モデル配位子を設計し、その鉄(III)錯体の構造、磁気分光学的性質および有機ニトリル類との反応性について検討し、モデル錯体の見地から非ヘム型低スピン鉄(III)配位構造の解明を進めているが、現在のところモデル配位子の合成が順調に進行中である。
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