研究概要 |
3d遷移金属とアンチモンの多層膜を作製し、3d遷移金属アンチモン化物単原子層の合成を試みた。63年度中に作製した試料に含まれる3d遷移金属はV,Cr,MnおよびNiである。 1.Cr,Mnを含む試料については、X線回析法と透過電子顕微鏡法を用いてCrSb,MnSb単原子層の構造解析を行なった。特に、多層膜の断面の透過電顕観察によって、単原子層とSb層とのエピタキシャルな積層状態を直接観察することが出来た。 2.MnSb単原子層の強磁性転移温度はバルクのMnSbに比べかなり低くなっていることが明らかとなった。残留磁化は30K以下で観測されるが、30K以上でも磁化曲線は飽和し強磁性クラスターが存在している。クラスターの平均サイズは温度変化し300K付近で消失する。これは2次元性を強く反映した性質である。 3.バルクのCrSbが反強磁性体であるのに対し、CrSb単原子層は弱い強磁性を示す。面間相互作用がないことによるスピン構造の変化またはSb層との整合歪によるCr原子の磁気モーメント自体の減少がその原因と考えられる。現在、強磁性共鳴による研究を進めている。 4.NiとSbの界面はMnとSbの界面に匹適する高い反応性をもつことが明らかとなった。NiS′b単原子層を含む試料も合成出来ているが、NiSbとSbとの格子定数の差が大きいため整合エピタキシャル成長した試料はまだ得られていない。NiSb単原子層はバルクと同様に反磁性を示す。これに対し、VとSbの界面の反応性は低く、基板温度を室温に保った場合には化合物の生成は認められない。 以上の結果をふまえて、次年度はFe、Coを含む試料についても単原子層の合成を試み、3d遷移金属アンチモン化物単原子層の構造と磁性について総合的な検討を行う予定である。
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