前年度に引続いてオキサラトビスエチレンジアミンコバルト(III)塩化物四水塩、[Co(ox)(en)_2]Cl・4H_2Oの結晶成長をその場観察により行った。今年度の研究においては、問題の結晶の結晶形が、溶液中に存在する化学種に大きく影響することを見い出した。その原因を追求しつつ、結晶成長メカニズムの解明を試みた。 錯体結晶をラセミ混合物溶液から成長させた場合にはその形は八角形であり、光学活性体溶液から成長させた場合は菱形に近い六角形となり両者で顕著な差が見られた。問題の錯体以外の不純物(陽イオン錯体の分割剤としてよく用いられるエチレンジアミンテトラアセタトコバルト(III)酸カリウム、lーK[Co(edta)]が存在する場合も含めて各系における錯体結晶の成長形を詳しく調べた。 いずれの場合も結晶は(001)面が大きく発達した板状であるので板状晶の各側面(011)、(101)、(111)、(010)、(110)、(100)の安定度およびそれらと溶存種との相互作用の大きさを経験的分子力場計算法により求め、結晶の成長形に関する実験結果と比較し、それらの原因について検討した(計算は、この結晶のX線解析の結果をもとに各結晶面の最外部に存在する結晶構成成分各4組をとり出し、静電的相互作用をも考慮した。MM2プログラムを用いて行った)。計算で不安定とされた面および構成成分との相互作用エネルギ-の小さい(すなわち立体障害の小さい)面は成長が速く、逆に安定と判定された面および不純物との相互作用エネルギ-が小さい面は成長が遅いという関係については、定性的には、実験と計算との間に矛盾のない非常によい結果が得られた。 以上に加えて結晶成長の不純物効果は天然の糖(dーグルコ-ス、dーフルクト-ス)を用いても調べた。これらの系では不純物と錯体との間の立体選択性を詳しく調べたが、それを見い出すには至らなかった。
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