配位子による金属元素の酸化状態の制御

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 63470041
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 木田 茂夫 九州大学, 理学部, 教授 (10031759)
• 研究分担者: 小寺 政人 九州大学, 理学部, 助手 (00183806)
• キーワード: 鉄(IV)錯体 / ニッケル(III)錯体 / パラジウム(III)錯体 / コバルト(II)錯体 / 酸化・還元電位

研究概要

鉄(IV)錯体の合成とその性質
Nー(2ーヒドロキシフェニルサリチルアミド(H_3L)およびその2ーヒドロキシフェニル基に種々の置換基R(R=5ーCH_3、R=5ーCI、R=5ーNO_2)を導入したものを配位子として鉄(III)および鉄(IV)錯体を合成した。鉄(IV)錯体は鉄(III)錯体の強塩基性溶液を空気中で自然酸化するだけで生成する。単離された鉄(IV)錯体は、K2[Fe(L^1)_2]・2H_2O、(TBP)_2[Feー(L^3)_2]、(TBP)_2[Fe(L^4)_2]・2K(acac)である。
ニッケル(II)、パラジウム(II)錯体の酸化
Nー(2ーヒドロキシフェニルサリチルアミド及びその同族体のNi(II)、Pd(II)錯体を合成した。X線結晶解析の結果、2個の配位子の一つは単座配位子としてフェノ-ル酸素で結合している珍しい構造であることが分かった。これらのNi、Pd錯体共に通常の錯体と比較してずっと低い電位で一電子酸化されることがCVの測定から分かった。定電位電解した溶液のESRスペクトルはNi(III)およびPd(III)錯体のシグナルを明瞭に示した。
コバルト(II)酸化状態の安定化
既に前年度の研究で、[Co_2(OH)taec](CIO_4)_3(taec=1,4,8,11ーテトラキス(2ーアミノエチル)シクラム)では、配位環境の特殊な効果によってCo(II)の酸化が著しく阻害されることが分かった。今年度はtpmc(1,4,8,11ーテトラキス(2ーピリジルメチル)シクラム)およびtcoa(1,5,8,12,15,22,26ーオクタアザトリシクロ[17,9,2,^<25,15>]ドトリアコンタン)の錯体について研究した。tpme,tcoaのCo(II)錯体もtaecの場合と定性的には同様で、空気中で安定であるが、CVの測定などから、酸化され難さは、tcoa<tpmc<taecの順になっている。この結果は最初予想したのとは逆で、配位子のかさ高さがCo(II)の酸化を抑制する因子ではないことを示している。

研究成果

• [文献書誌] 安里英治,木田茂夫,村瀬一郎: "Synthesis and Characterization of Air-stable Chromium(II)Complexes with 1,4,8,11-Tetrakis(2-aminoethyl)-1,4,8,11-tetraazacycloteradecane" Inorganic Chemistry. 28. 800-802 (1989)
• [文献書誌] 御厨正博,村瀬一郎,安里英治,木田茂夫: "A Novel-Carbonato-bridged Binuclear Nickel(II)Complex with N,N′,N″,N′′-Tetrakis(2-aminoethyl)-1,4,8,11-tetraazacyclotetradecane" Chemistry Ltters. 497-500 (1989)
• [文献書誌] 鯉川雅之,後藤民企男,大川尚士,木田茂夫: "Synthesis and Characterization of Cobalt(III)and Cobalt(IV)Complexes of N-(2-Hydroxyphenyl)salicylamide and Homologues" Journal of Chemical Society,Dalton Transaction. 1613-1616 (1989)
• [文献書誌] 鯉川雅之,大川尚士,松本尚英,後藤民企男,木田茂夫,高妻高光: "Synthesis,Structure,and Redox Properties of Dicopper(II,II)Complexes of N-(2-Hydroxyphenyl)salicylamide and Homologues.Facile Oxidation to Dicopper(II,III)and -(III,III)Species" Journal of Chemical Society,Dalton Transaction. 2089-2094 (1989)
• [文献書誌] 安里英治,H.Toftlund,御厨正博,木田茂夫,K.S.Murray: "Preparation and Characterization of Copper(II)Complexes with 1,4,8,11-Tetrakis(2-pyridylmethyl)-1,4,8,11-tetraazacycloteradecane" Inorganica Chimica Acta. 165. 207-214 (1989)
• [文献書誌] 安里英治,橋本慎二,松本尚英,木田茂夫: "Synthesis,Crystal Structure,and Quasi-Reversible O_2 Binding of Cu_2(tpmc)X_2(X=C10_4,PF_6,CF_3SO_3)" Journal of Chemical Society,Dalton Transaction. (1990)