市販炭素繊維/炭素複合材のなかで、マトリックスが等方性組織と異方性組織が混在したものが入手できたので、これについて破壊クラックの伝幡挙動を偏光顕微鏡下で観察し、マトリックスの光学組織との関係を議論した。その結果、クラックは優先的に、等方性領域とその周囲に生じた異方性領域との境界、あるいは等方性領域と異方性領域との違いが明確な境界のいづれかを通って進行することが明らかとなった。前者の境界はフェノール樹脂マトリックスの大きな収縮にもとづく応力黒鉛化によって、後者の境界はフェノール樹脂の炭素化によって生成した気孔中へのピッチの含浸によって生成したものと考えられる。炭素繊維/炭素複合材においてマトリックス組織がその機械的特性に大きな影響を持つことを示し得た。 ピッチ/ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂混合物をマトリックスとして複合材を加圧下炭素化によって試作し、高密度化と組織制御の条件を明らかにした。繊維とマトリックス原料の混合物を加圧成型したのち、30MPa加圧下で650℃まで炭素化したものは約1g/cm^3の嵩密度を持ち、そこにマトリックス原料を1回含浸・加圧下炭素化することによって1.35g/cm^3まで高密度化し得た。また、マトリックス組織はPETを20wt%混合することによって均一なファインモザイクとなった。炭素繊維なしではコースモザイク組織となることがすでに明らかとなっているので、繊維の存在がマトリックスの流動を著じるしく阻害していることが分る。また、ピッチとフェノール樹脂の粉末混合物を30MPaの加圧下で炭素化したところ、両者が互に溶け合い、均一な光学組織を持つ炭素材が得られた。フェノール樹脂の混合割合の増加にともなって、光学組織の単位は徐々に小さくなって行き、20wt%でミディアムモザイクであったものが50wt%でファインモザイク、60wt%で等方性となることを明らかにした。
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