各種の非水溶媒中、特に親水性有機溶媒中でプロテアーゼを触媒とするエステルおよびペプチドの合成を行ない、反応速度および生成物の平衡収率に対する溶媒効果ならびに、反応条件の効果を系統的に調べ、あわせて固定化の効果を検討し、以下に述べる知見を得た。 1.α-キモトリプリシン(CT)およびスブチリシンカールスベルグ(STC)は、アルコール、アセトニトリル等の溶媒中で芳香族アミノ酸のエステル化およびペプチド合成に対する触媒活性を保持する。これに対して、スブチリシンBPN(STB)はペプチド合成活性を有するがエステル合成能を示さない。 2.上記の反応は芳香族アミノ酸に対して特異的であるが、ペプチド合成におけるアミン成分に対する選択性は水溶液中と異なる。また立体特異性はL型に対して厳密に保たれる。これらの結果から、親水性有機溶媒中に分散または溶解した酵素は、水溶液中と類似のコンホメーションを保持するが、基質結合部位に何らかの形態変化が生じているものと推定される。 3.プロテアーゼをある種の多糖類またはその誘導体と複合化させると反応速度および生成物の収率が著しく向上する事が見出された。キチン、キトサン、キシラン等が特に有効であった。これらはプロテアーゼと複合体を形成し、有機溶媒中での安定性を長期にわたって保持させる。またCMセルロース等のイオン交換性多糖類もプロテアーゼを吸着し、その活性と安定性を増大させる事が見出された。 今後は、UV、CD、蛍光分光法等により、有機溶媒中での遊離または固定化状態での酵素のコンホメーション変化の検出、また速度論的方法による酵素作用の変化について検討する。
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