本年度は主として塩基触媒による芳香族炭化水素の酸素酸化反応における速度論的な知見を得ることを目的として実験を行い、以下の成果が得られた。1.t-buokによる1-メチルナフタレン、2-メチルナフタリン、9-メチルフェナントレン、フルオレン、9、10-ジヒドロアントラセンの酸化反応においては酸化速度が試料のpKaにほぼ比例することが明らかになった。2.上記化合物の酸化速度はDMSO-t-BuoH濃度に比例することが明らかになった。3.酸化速度に及ぼす溶媒効果は被酸化物の構造に大きく依存し、側鎖メチル基の酸化ではDMSO>HMPA÷DMF、ジフェニルメチレンの酸化ではDMSO>DMF>HMPAの順に酸化速度が減少した。これらの結果より、基質由来のペルオキシアニオンが基質よりプロトンを引き抜く連鎖成長過程における溶媒の関与が示唆される。4.上記化合物の酸化速度は塩基触媒の塩基性度に大きく依存し、t-buokを用いた方がNaOHより2桁大きい値が得られた。5.酸化生成物についてはメチルナフタリン、9-メチルフェナントレン、2-ナフトアルデヒドからは対応するカルボン酸がほぼ定量的に得られた。また、フルオレンと9、10-ジヒドロアンドラセンからはフルオレノンとアントラキノンがそれぞれ高選択的に得られた。 来年度は縮合環芳香族炭化水素、アセナフテン、ヒドロキシメチルナフタレン等をアルカリ/アルコール系で酸素酸化し、アルデヒドあるいはキノンを生成する反応について検討する。また、シクロドデカン、デカリンなどシクロパラフィン類や縮合環芳香族側鎖メチル基を水、有機相の2相系において酸素酸化してアルコール、ケトン、アルデヒドなどを選択的に合成する触媒反応についても併せて検討する予定である。
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