1)ポリスチレンスルホン酸上の有機カチオンのクラスター形成: スチルバゾールイオンなどの有機カチオンは、ポリスチレンスルホン酸アニオン場に静電吸着される。このオレフィンのシス-トランス異性化は、ルテニウム錯体増感による光電子移動によって引き起こされる。均一溶液中とは大きく異なり、この高分子アニオン場のスチルバゾールイオンの光増感異性化反応では、1をはるかに越える高い量子効率を与えた。この結果はオレフィン集合体間での電子リレーに基ずく連鎖反応を示している。しかるに、高分子の重合度を変化させオレフィン吸着数を50倍以上変動させても、量子効率は50〜110程度と一定であった。9ーメチルアントラセンプローブ法によって求めた基質集合数は、高分子電解質の重合度に依存せず、80〜90と一定であり、異性化量子効率との間には良い一致が認められた。すなわち、高分子電解質に静電吸着されたオレフィン群は、ミセルのような凝集数100程度のクラスター状構造となっていることが明らかとなった。したがって、オレフィン分子間の電子リレーは同一クラスター内では起こるが、クラスター間を経てポリマー全体に及ぶことはないことが判明した。今後、光増感電子リレーで生成するオレフィンラジカルの検出と速度論をレーザー光分解によって行う予定である。 2)ポリスチレンスルホン酸上のオレフィンの光二量化: カチオン性オレフィンであるスチルバゾールイオンは、上記高分子電解質に吸着された状態で光照射すると、syn-頭ー尾型環化二量体を優先的に生成した。一方、AOTの作る逆ミセルに吸着されたオレフィンでは、synー頭ー頭型二量体を与え、本研究での二量体の立体化学とは対照的な結果である。これらの結果からクラスター内のオレフィン相互の配向性は低く、頭ー頭立体選択性を発現する場とはなりにくいことが明らかとなった。
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