ポリスチレンスルホン酸アニオン(PSS^-)は、カチオン種を吸着・凝集し、分子集合体を形成する。たとえばスチルバゾ-ルイオン(Stz^+)はルテニウム錯体と、ポリアニオン場に有効に吸着される。光照射により、両者間で電子移動が起き、吸着されたスチルバゾ-ル分子間で次々と電子リレ-が行われる。それに伴なって連鎖的にシス-トランス異性化が達成される。 Stz^+は、ほぼ定量的にPSS^-に吸着するため、PSS^-の重合度に応じた大きさのStz^+イオン分子集合団が生ずる。しかし、光増感異性化の量子収率は100程度であって何千とはならない。ケイ光プロ-ブ法によりStz^+の凝集数を調べたところ、重合度によらずミセル類似の凝集数(60-100)をもつことからクラスタ-構造をとることが明らかとなった。 異性化の中間体と推定されるスチルバゾ-ルラジカル(SR)の検出を、レ-ザ-フラッシュ法により検討した。ナフタリンとジシアノベンゼン(DCB)の複合増感系の光照射により、DCBのアニオンラジカルを生成させ、Stz^+の一電子還元を行った。レ-ザ-フラッシュ直後に生ずるDCB^<-・>(λ_<max>340nm)が観察された。時間の経過に伴なって、340nmの吸収が消失し、代わりに〜420nmの中間体の生成が観察された。他の類似する報告例からみて、この中間体はSRと結論した。 この中間体ラジカルの消失速度を測定し、PSS^-アニオンの添加効果を検討した。等モル量の添加まで添加量に比例して2次速度定数は増加し、ほぼ10倍の大きさとなった。PSS^-ポリアニオン場に基質のオレフィン分子が凝集濃縮されることにより、電子リレ-速度が著しく向上したものと解釈される。今後、増感剤系を改良し、静電場に吸着溶存する系で電子リレ-の効率化をはかる計画である。
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