構造と分子量が精密に規制された高分子の合成法として、付加重合の分野ではリビング重合が最も有効な手段である。本研究では、従来不可能と考えられてきたビニル化合物のリビングカチオン重合系の開発を目的として、以下の3点を明らかにすることができた。 1.リビングカチオン重合の一般原理。リビングカチオン重合が従来困難であったのは、生長鎖が不安定な炭素カチオンであり副反応が起るためである。そこで、生長炭素カチオンを「求核的相互作用」で安定化するとリビング重合が起こると考え、(A)求核的な対アニオンによる生長炭素カチオンの安定化、および(B)添加したルイス塩基による生長炭素カチオンの安定化、という2つの一般原理を提唱し、これを実証した(次節参照)。 2.添加塩基の存在下における高温でのリビングカチオン重合。酸性の強いハロゲン化金属(EtAlCl_2など)を用いると、低求核性の対アニオンが生成するため、リビングカチオン重合は不可能である。この重合系に、エステル、エ-テル、ピリジン誘導体のような弱いルイス塩基を添加すると、これらにより生長炭素カチオンが安定化され(上記原理B)、リビングポリマ-が生成することを見出した。この方法により最高+70℃という高温でもビニルエ-テルのリビング重合に成功し、さらに塩基の構造とそのカチオン安定化作用の関係を明らかにした。 3.スチレン誘導体のリビングカチオン重合。ビニルエ-テルより不安定な生長鎖を生成するスチレン誘導体のリビングカチオン重合は従来困難であったが、上記の原理Aに基づくHI/ZnI_2開始剤系を用いると、種々のスチレン類、特に酸性条件下で分解しやすい置換基を持つp-t-ブトキシスチレンのリビング重合が室温においても可能なことを見いだした。さらにこの重合を用いて種々のブロック共重合体および両親媒性高分子を合成した。
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