本研究代表者は最近不溶性ピリジニウム型樹脂が微生物細胞を生きた状態で強力に捕捉することを見出した。このような機能を有する材料が見出されたのは世界で最初である。本研究の目的は、この樹脂の表面に捕捉固定化した微生物菌体を用いて新しい方式のバイオリアクターを開発することである。モデル生化学反応としてフマル酸とアンモニアからLーアスパラギン酸を合成する反応を取り上げた。この反応を行う微生物としてアスパルターゼ活性の高いE.coliを用いた。不溶性ピリジニウム型樹脂1gに30mgのE.coli菌体を捕捉固定化し、ジャケット付きガラスカラムにつめ、0.1Mのフマル酸アンモニウム溶液を流して連続式に反応を行った。至適pHは7.4〜7.7で、30℃で空間速度0.41〜0.83/hの時にLーアスパラギン酸が定量的収率で得られた。空間速度を1.57/hに上げても収率の低下は10%程度であった。さらにpH7.4、空間速度0.83/hの条件でフマル酸アンモニウムの濃度を0.5Mと高くしても87%の収率でLーアスパラギン酸が得られた。このバイオリアクターは30℃で180hまでは安定で、約600hで活性は50%になった。本研究で開発した菌体細胞の捕促固定化法においては、共有結合法や架橋法の場合のように試薬を用いないのでは生体触媒の活性を低下させる危険性が少ない。菌体細胞は樹脂の表面に固定化されているために、現在最も広く用いられている包括固定化法の場合のように、基質および生成物の移動を妨げる要因がないから物質移動の障害による基質に対する親和性の低下は小さい。この樹脂による微生物細胞の捕捉は非常に強力であるため、イオン交換吸着法や物理吸着法の場合のように、生化学反応中に細胞が担体から剥離してリアクターから流失するという危険性がない。このように本研究で開発した不溶性ピリジニウム型樹脂の表面に捕捉固定化した微生物菌体は、バイオリアクターとして多くの利点があるので、今後の発展が期待される。
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