本研究は、植物細胞を用いてその特有の有用物質を生産する際に、固定化技術の利用がどのような効果を及ぼすのかを、生物学的因子と工学的因子の両面から定量的に評価し総合的な解析を行おうとするものである。反応生成物を細胞外へ排出するモデル系として、コ-ヒ-細胞によるカフェインの生産、細胞内に蓄積するものとして、ベニバナ細胞によるビタミンEの生産について検討を行い、以下の点を明らかにした。 1.コ-ヒ-細胞によるカフェインの生産: (1)ポリウレタンフォ-ム固定化反応系で酸素の移動が律速となる可能性。 (2)生産性を著しく向上させる培地および光の照射条件。 (3)光照射強度およびカフェイン濃度が増殖および生産に及ぼす影響。 (4)50日以上のカフェインの連続的な生産が可能であることと、その際の光照射の最適化のための指針。 :これらの知見より、連続型のフォト・バイオリアクタ-の構築など新たな展望が開かれたと考える。 2.ベニバナ細胞によるビタミンEの生産: (1)前駆体(phytol)の添加によるα体の生産能力の向上とその最適値。 (2)固定化条件と細胞の生産能力の関係。細胞塊が大きいと生産性が低下すること。その際、α体とγ体の比率が相対的に向上すること。 (3)窒素源制限、Mg欠乏、ホルモンフリ-、光照射などの条件での生産性の向上。固定化条件でのこの効果の低減。 (4)寒天の添加によるエリシタ-効果。 (5)pH、ショ糖濃度、電導度の変化などの測定による細胞の生産能力制御の可能性。 (6)Triton X-100及びDMSO等を用いた透過処理による生産物排出(促進)の可能性。 :これらの知見は、ベニバナのみならず、広く固定化植物細胞の工業化に際して有用であると考えられる。今後、細胞分化の調節、排出細胞の開発、連続操作等への展望が望まれる。
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