植物細胞中でのタンパク質生合成・輸送・集積の一連の機構を理解する目的で、イネ貯蔵タンパク質の生合成から集積までの各ステップをモデルとして選んだ。即ち、登熟期イネ種実中でプロラミンはプロテインボディI(PBーI)へ、グルテリンはプロテインボディII(PBーII)へそれぞれ別々に分配される。この分配は非常に特異的でプロラミンとグルテリンが混在したPBは見られない。このことはイネ貯蔵タンパク質の生合成・集積の過程で、生合成される貯蔵タンパク質前駆体から成熟プロテイン形成のための細胞内部位(膜系)の選択が厳密に制御されていることを示している。 本研究ではイネ貯蔵タンパク質前駆体が胚乳細部中で特定の膜を認識し、かつプロセシングされる分子機構を明らかにするため、各貯蔵タンパク質に対応するcDNA構造を明らかにする作業を継続してきた。その結果、これまでに10kDaプロラミンについて1ケ、13kDaについて4ケ、59kDaグルテリン前々区体について4ケ、26kDaグロブリンについて1ケのcDNA構造を得、その翻訳によるアミノ酸配列を得た。これらのアミノ酸配列を整理した結果、貯蔵タンパク質顆粒の形態とそこへ集積する貯蔵タンパク質前駆体のシグナル配列との間に強い相関が成立していることが判明した。即ち、PBーI、PBーIIに対応して、19〜24アミノ酸からなるシグナル配列が存在する。また、それぞれのシグナル配列は2種類のプロテインボディに対応する小胞体膜を別々に認識し、かつその上でプロセシングを受けてシグナル配列を除去されることも、in vitro実験により示された。
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