紙や板紙の構成物質であるセルロースやヘミセルロースは、放射線照射によって崩壊する高分子化合物である。医療品や食品の放射線による殺菌は、今後重要性を増すと考えられるが、照射時に紙や板紙が伴われることが多い。本研究では、紙や板紙の放射線による性質、特に強度特性の変化を追究し、さらに耐放射線性を付与する手段の開発を意図した。 1.広葉樹および針葉樹のクラフトパルプを原料として、手抄き紙(坪量60g/m^2)を調製し、PE製袋に入れて密封して、Coー60からのγ線を10〜30KGyの範囲で照射した。 (1)γ線照射紙をチオグリコレート培地に浸漬したところ、25KGyの照射でほぼ完全に殺菌されることがわかった。 (2)25KGy程度のγ線照射では、紙の主たる強度特性(引張り、引裂き、破裂)への影響は少ないものの、耐折度の低下から紙の構成繊維の劣化がある程度進行していることを推察した。 2.同じパルプに合成高分子系紙力増強剤(ポリアクリルアミド・ポリアミンポリアミド・エピクロルヒドリン、部分アミノ化ポリアクリルアミド)を配合し、手抄き紙を調製した。25KGyのγ線を照射した。 (1)紙力増強剤は繊維の劣化防止に特に寄与しないけれども、添加効果は維持されており、照射による紙力増強剤それ自体の強度変化は起らないことを確認した。 3.完全殺菌には、さらに高線量照射が必要な場合もあり、また他の分野(塗工剤やインキのキュアリング)への利用の基礎資料をとることを兼ね、同様の手抄き紙に最高100KGyまでのγ線を照射した。 (1)最高線量の照射でセルロースの重合度は1/10程度になるが(既往研究)、同じレベルにまで低下するのは耐折度のみで、主たる強度特性は20%程度低下するにとどまった。
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