DNAやヌクレオチドとそれらを認識する酵素タンパク質との相互作用様式を明らかにすることは、新しい阻害剤及び薬の開発にとって重要な課題である。本研究の最終年度にあたる今年は、一つの変形塩基がA.G.C.Tの各種塩基とある程度の塩基対形成能を持つと期待されるN^6ーメトキシアデニン、N^6ーヒドロキシアデニン、N^6ーメトキシジアミノプリン、5ーカルボチサミドウラミルを選びそれらの5'ートリリン酸体やそれらを含む、DNAオリゴマ-がDNAポリメラ-ゼにどのように認識されるかについて検討した。 N^6ーメトキシアデニンやN^6ーメトキシジアミノプリンを含む5'ートリリン酸体は、大腸菌のKlenow fragmentでグアニン又はアデニンとして認識され、対応するチミン又はシトシンと塩基形成をすることが明らかになった。これらは溶液中でアミノ-イミノ互変異性体をとりその結果の反映と考えられた。一方、これらを含むDNAオリゴマ-はチミン及びシトシン残基と安定な塩基対を形成することも融解温度の測定から明かになった。N^6ーヒドロキシアデニンやN^6ーヒドロキシジアミノプリンは強い変異原性を示すが、その原因としてこれらがDNA中に取り込まれ、その互変異性体が原因でトランジションを起こすと考えられた。 5ーカルバモイルウラミルを含むDNAオリゴマ-は相補鎖のA.G.C.Tのどれとも安定な塩基対を形成し比較的高い融解温度を示した。これらがどのような水素結合対を作っているかについては今後の検討課題である。一方、5ーカルバモイルウラシルを含む5'ートリリン酸体はKlenow fragmentでシトシン体として認識されGの相補側に取り込まれることが明らかになった。一般的に、酵素の基質認識はきわめて特異性が高いと考えられているが、今回示したようにあいまいな部分が多いことが明らかになり、今後これらの知見をもとに新しい阻害剤の設計を行ないたい。
|