1.当初の計画にしたがい各種薬用植物の培養系の誘導を試み、成育が良好かつ均一な実験系としての条件を満たすものとして、クズ(Pueraria lobata)およびマオウ(Ephedra distachya)の振盪培養系を得た。 2.クズの培養細胞系では、 (1)ダイズ疫病菌(Phytophthora megasperma)の糖タンパク画分(Pmg-GP)は、生薬葛根の有効成分であるダイゼインおよびその配糖体ダイズィン、プエラリンの生産量を数倍から数10倍に上昇し、異常代謝産物としてプテロカルパン骨格を持つツベロシンの生産を誘導した。 (2)酵母エキス(YE)もイソフラボンおよびその配糖体の生産を上昇させるが、新規化合物としてダイゼインのPummerer's ketone型、C-C型、C-O-C型の二量体の生産を誘導した。 (3)クズ培養細胞の細胞壁から得たオリゴガラクチュロン酸画分(P1-CF)もYEとほぼ同様な効果を示した。 (4)ダイズにおいて最も強い活性を示すダイズ疫病菌のグルカン画分(Pmg-G)、および酵母エキス由来のグルカン画分(YE-G)は全く効果を示さず、同じマメ科の植物でもエリシタ-に対する反応に質的な差のあることが示された。 (5)酵母エキスでの反応をモデルとして検討したところ、対数増殖期の初期の添加により、生合成酵素の活性が一過性に上昇すること、またこれらの酵素が5-Deoxy型の基質に選択性を示すことなどから、イソフラボンおよびその配糖体の生産量増加が生合成酵素の誘導の結果であることが示された。 3.マオウの培養細胞系は、微量ながらエフェドリン、プソイドエフェドリンを生産するが、各種エリシタ-添加によるアルカロイドの生産量に変化は無く、目的とする代謝産物が抗菌性物質と生合成経路を共有することが生産性上昇に必要なことを示す結果となった。 4.本研究の成果は、ファイトアレキシン・エリシタ-を植物培養系における物質生産の調節に利用するための重要な基礎的知見となる。
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