魚卵中に見出された新しいプロテア-ゼのタンパク化学的および生物学的機能の研究

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 63470135
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 井上 康男 東京大学, 理学部, 助教授 (30004336)
• 研究分担者: 北島 建 東京大学, 理学部, 助手 (80192558)
• キーワード: ポリシアロ糖タンパク質 / プロテア-ゼ / 卵表層胞局在プロテア-ゼ / 受精・卵活性化 / 卵表層胞開口分泌 / 魚卵

研究概要

ニジマスをはじめサケ科魚種未受精卵内に在る分泌顆粒である表層胞には極めてユニ-クな酸性高分子糖タンパク質であるポリシアロ糖タンパク質(PSGP)が存在することを以前我々は発見した。PSGP分子のコアタンパク質はポリプロテイン構造、すなわち、11〜13個のアミノ酸から成るペプチドを最小構造単位とするタンデム反復構造をしている。受精など卵活性化に呼応して、表層胞は開口分泌し、PSGPをはじめ内容物は細胞膜と受精膜の間の囲卵膣に放出される。表層胞の開口分泌に伴い、PSGPは反復単位まで低分子化される。この反応を触媒するプロテア-ゼ(PSGPase)に関する研究が本課題であり、本年度の研究成果の概要は下記の通りである。(1)PSGPaseは未受精卵内表層胞に高分子基質であるPSGPと共存していることを明らかにした。未受精卵では基質分子と同一顆粒内に共存していることから、卵が活性化されるまではPSGPaseは何らかの仕組で酵素活性が抑えられていなければならない。その仕組としては例えば、プロ酵素の型で存在し、卵活性化後プロセスされて活性型酵素に変換されるなどの可能性が考えられたが、本研究の結果、酵素PSGPase活性の発現は塩濃度によって厳密に制御されていることが明らかにされた。(2)PSGPaseの局在性が判明したことにより、SPGPaseの単離・精製法および収率向上に画期的な改良を加えることができた。まず、ニジマス未受精卵から表層胞に富む画分を調整し、そこから各種カラムクロマトグラフィ-を重ね、最終的にHPLCを用いて高純度のPSGPaseを調整することができた。このプロテア-ゼは極めて比活性が高いため、PSGPaseを酵素化学的(基質特異性をはじめ酵素としての諸性質の研究)には種々の問題は一応解消したが、タンパク質化学的研究(アミノ酸配列の決定、免疫抗原として用いるなど)ができる程の酵素量(タンパク量)を得るにはなおいくつかの問題が残されている。

研究成果

• [文献書誌] Ken Kitajima: "Isolation and Characterization of a Novel Type of Sialoglycoproteins(Hyosophorin)from the Eggs of Medaka, Oryzias latipes: Nonapeoptide with a Large N-Linked Glycan Chain as a Tandem Repeat Unit" Developmental Biology. 132. 544-553 (1989)
• [文献書誌] Koji Ishii: "Free Sialooligosaccharides Found in the Unfertilized Eggs of a Freshwater Trout, Plecoglossus altivelis: A Large Storage Pool of Complextype Bi-,Tri-, and Tetraantennary Sialooligosaccharides" The Journal of Biological Chemistry. 264. 1623-1630 (1989)
• [文献書誌] Akira Seko: "Structural Studies of Fertilization-associated Carbohydrate-rich Glycoproteins(Hyosophorin)Isolated from the Fertilized and Urfertilized Eggs of Flounder,Paralichthys olivaeus" The Journal of Biological Chemistry. 264. 15922-15929 (1989)
• [文献書誌] Sadako Inoue: "Isolation and Structures of Glycoprotein-derived Free Sialooligosaccharides from the Unfertilized Eggs of Tribolodon hakonensis,a Dace" The Journal of Biological Chemistry. 264. 18520-18526 (1989)
• [文献書誌] Akiko Kanamori: "Isolation and Characterization of Deaminated Neuraminic Acid-rich Glycoprotein(KDN-gp-OF)in the Ovarian Fluid of Rainbow Trout" Biochemical and Biophysical Research Communications. 164. 744-749 (1989)
• [文献書誌] Ken Kitajima: "Proline-directed Aspartyl Cleaving Protease Acting on Salmonidae Egg Polyproteins at Fertilization" The Journal of Biological Chemistry.