いろいろなタンパク質の静的構造がX線結晶解析により明らかにされ、分子の構造と機能を考える基礎を与えてきた。しかし機能の発現にはタンパク質のやわらかさが必須であり、動的構造の解明が重要である。振動スペクトルは分子構造に敏感で時間応答が早いため、反応中間体等の短寿命分子の構造研究に適しているが、感度が低くシグナルの選択性に問題があった。しかし紫外光を励起光とする共鳴ラマン散乱を用いると、芳香族アミノ酸残基側鎖の分子振動を選択的に感度高く検出できることが次第に明らかになってきた。そこで本研究では、200〜240nmの光で共鳴ラマン散乱を10nsの時間分解能で観測できる装置を製作し、それで一酸化炭素ヘモグロビンの光解離に伴う四次構造変化を追跡した。Nd:YAGレ-ザ-の4倍波(266nm)をH_2の誘導ラマンでシクトさせ、ペランブロッカプリズムで218nmの光を単離してラマン散乱励起光とした。1.26mの分光器に2400g^r/nmの解析格子をつけ、それを2次で使用した。COの光解離にはN_2レ-ザ-励起の色素レ-ザ-で419nm、10ns幅のパルス光を発振させた。パルス発生器でNd:YAGレ-ザ-点火時刻をN_2レ-ザ-のそれよりマイクロ秒のオ-ダ-で遅延させた。+1秒の遅延に対しては、N_2レ-ザ-の代わりにNd:YAGレ-ザ-の2倍波をラマンシフトさせた436nmのパルス光を光解離に用い、光路差を長くしてプロ-プ光の遅延時間(△t)をつくった。(△t)が-100μsと+10nsのスペクトルは同じであったが、△t=10-20μsのところからトリプトロファンの878cm^<-1>のラマン線が883cm^<-1>にシフトをしはじめ20μsで最大のシフトを示した。試料室がCOガス雰囲気の時は100μs後に元のスペクトルに戻ったがN_2雰囲気下では戻らなかった。X線結晶解析から明らかになったいるR形、T形ヘモグロビンは、それぞれ-100μsと20nsのスペクトルを与えた。それ故今回観測したスペクトル変化はα1-β2界面あるトリプトファンβ-37の水素結合状態の変化によると解釈した。
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