我々はDNA複製エラーが分子進化に寄与する突然変異の主要因であるとの仮定のもとで、オスとメスの生殖細胞の分裂数(その比をαとする)に差があると、突然変異率が染色体間で異なることを理論的に示した。すなわち分裂数比αが非常に大きいと、XX/XY型では突然変異率は常染色体:X染色体:Y染色体=1:2/3:2となる。ZW/ZZ型(鳥類)では逆に常染色体:Z:W=1:4/3:0(1/α)(=1/αのオーダーで非常に小さい)となる。この理論的予測を検証するため、今年度はXX/XY型に限って、突然変異率が直接反映する遺伝子の部位、すなわち同義座位での進化速度を定量し、染色体間で比較した。染色体上の位置が同定されている遺伝子の塩基配列をヒトとネズミで比較し、同義座位での塩基置換数Ksを既に我々が開発した方法で解析した。解析した遺伝子の種類は常染色体遺伝子が35、X染色体遺伝子が6、Y染色体遺伝子が1である。同義座位の進化速度は遺伝子のタイプに依存せず、ほぼ一様な値を示すので、染色体ごとにKs値を平均した。その結果、同義座位での進化速度の比は常染色体:X染色体:Y染色体=1:0.58:2.2となり、αが1に比べて非常に大きい場合の理論値に良い一致を示した。このことから少なくとも哺乳類に関する限り、進化に寄与する突然変異の大部分はオスで生成されると結論した。この理論の完全な証明にはZW/ZZ型での解析がきわめて重要であるが、現在鳥類のZ及びW染色体遺伝子について、比較可能なデータがない。一方鳥類(chicken)のZ及びW染色体遺伝子のクローニングが行われた。Z染色体遺伝子については、そのcDNAが単離され、ORFが存在するらしい。W染色体遺伝子のクローニングは困難を極めているが、W染色体特有の繰り返し配列を目安にクローニングを試みている。明年度は近縁種も含め、Z及びW染色体遺伝子を単離し、塩基配列を決定することにより、進化速度を解析する予定である。
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