植物腫瘍を形成するアグロバクテリウムやPseudomonasは植物ホルモンのオーキシンであるインドール酢酸(IAA)を生成し、このホルモン産生が腫瘍形成に必須であることがわかっている。また、そのIAA生合成の経路は高等植物の経路と異なり、トルプトファンからインドールアセトアミド(IAM)を経て行なわれることも明らかにされている。われわれの研究室ではマメ科植物の根に共生窒素固定の場である根粒を形成する根粒菌のうちBradyrhizobium属に属する根粒菌にIAM経路が広く分布することをはじめて見出した。本研究ではこの経路の生理的役割を明らかにする1つのステップとしてIAM経路の後半の過程であるIAMをIAAに変換するIAMヒドロラーゼの遺伝子を単離することを試みた。その方法はIAM変換活性をもつB.japonicumの全DNAのユスミドライブラリーを作製し、核コスミドクローンをIAM変換活性を持たないB.japonicumの株に移すことで活性の回復したクローンを得るものである。その結果、約26kbのDNA断片を持ちIAM変換活性の回復した1クローンを単離できた。そのクローンをさらにサブクローニングし、また、トランスポゾンをクローニングしたDNAに挿入してIAM変換活性と挿入部位の関係を解析することにより、IAM変換活性の発現に必要な領域を2.3kbに限定しその遺伝子をbam遺伝子と名づけた。大腸菌はこの遺伝子を持たないが、この遺伝子を導入するとそのままでは変換活性は検出されないものの、この遺伝子の上流のlacZのプロテーター領域をつなぐとIAM変換活性が検出されることから単離したbam遺伝子はIAMヒドロラーゼ遺伝子の発現制御に関わるものではなく、構造遺伝子であることが明らかになった。これは、根粒菌の植物ホルモン合成に関する遺伝子が単離されたはじめての例である。
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