植物腫瘍を形成するAgrobacterium tumefaciensやPseudomonas savastanoiは植物ホルモンのオ-キシンであるインド-ル酢酸(IAA)を生成し、このホルモンの過剰生産が腫瘍形成に必須であることがわかっている。また、そのIAA生合成経路は高等植物のものと異なり、トリプトファンからインド-ルアセトアミド(IAM)を経て行われる(IAM経路)ことも明らかにされている。 昨年度、根粒菌にもIAM経路が存在することを見出し、ダイズ菌(Bradyrhizobium japonicum)からIAM経路の後半の過程であるIAMヒドロラ-ゼの遺伝子をクロ-ニング(bam遺伝子と名づけた。本年度は(1)その遺伝子の塩基配列を決定した。読取り枠は465のアミノ酸からなる分子量50266のタンパク質に対応する。その中央部分にA.tumefaciensのtms2やP.savastanoiのiaaH遺伝子と高いホモロジ-のある配列が認められた。(2)種々の根粒菌でIAMヒドロラ-ゼの活性を調べてみるとBradyrhizobium属にはこの活性が広く分布しているにも拘らず、Rhizobium属のものにはR.frediiでごく弱い活性が認められた以外は活性を検出できなかった。(3)しかし、bam遺伝子の中央部分をプロ-ブとしてサザンハイブリダイゼ-ションを行った結果はRhizobium属の根粒菌にもこのプロ-ブと高いホモロジ-をもつ塩基配列が存在することを示した。(4)この結果はRhizobium属の根粒菌ではIAMヒドロラ-ゼの遺伝子は存在するがその発現が抑制されている可能性を示唆する。(5)そこで、R.l.biovar.viciae K5株を用いてこの遺伝子が発現している変異株の単離を試み、5-メチルトリプトファン耐性株の中からIAMヒドロラ-ゼ活性をもつ株を単離することに成功した。これらの結果から、少なくともIAM経路の後半の過程は根粒菌に広く分布しており、根粒形成に何からの役割を果しているものと考えられる。
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