我々は、これまでに、アグロバクテリウムが植物に感染すると、バクテリア内でTiプラスミドからTーDNAが切り出され、環状化することを見い出した。さらに、この環状化反応は、植物から由来する物質により誘導されること。Tiプラスミド上のvir遺伝子群が必要であることを示した。また、双子葉植物だけでなく、単子葉植物にも、TーDNAの切り出しを誘導する物質が存在するかどうかを検討した。その結果、単子葉植物には、双子葉植物とは異なる新しいタイプの誘導物質が存在することが明らかになった。本年度は、小麦のフスマからその誘導物質を精製し、構造を決定した。その結果以下のようなことが明らかになった。 1.vir遺伝子発現の誘導活性を指標として精製を進めたところ、活性は途中で、粗水性画分と水溶性画分の二つの画分に分かれた。つまり二つの画分をまぜた時のみ活性が検出された。 2.粗水性画分の誘導物質は、フェノール化合物の1種であるフェルラ酸であることがわかった。フェルラ酸はリグニン合成の中間体であり最終的には多糖に結合し細胞壁の構成成分になることが知られている。 3.2の結果から、双子葉植物では、vir遺伝子発現誘導物質が細胞外に分泌されるのに対して、単子葉植物では分泌されない細胞壁成分が誘導物質になっていることがわかった。 次年度は、 1 実際に糖に結合したフェルラ酸が誘導活性があるかどうかを検討すること。 2 親水性成分を精製し、分子構造を決定することを計画している。
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