初年度の本年は、できるだけ多くの種についての情報を集めることに主眼を置き、約40種あまりの遊泳細細胞の記録を得ることができた。それらの多くについては詳細な解析を未だ行なっていないが、解析の主眼が置かれるプラシノ藻類について次のような興味ある知見が得られた。 1.鞭毛を後方に運動して遊泳するプラシノ藻の一つPterospermaは、緑色植物の遊走細胞に一般的と言われる有効打と回復打を伴う、いわゆる平泳ぎ型運動はみられず、その運動パターンは動物の精子鞭毛の運動パターンときわめて類似しており、有効打と回復打の区別は認められない。本藻は4本の鞭毛を有し、3本が一列に、他の1本が離れて配列する〔3+1〕配列をとる。鞭毛軸糸の連管に存在するマーカー構造の解析から、これらの鞭毛は同一の方向に力を発生することを微細構造の上から予想したが、高速度ビデオ撮影でこのことが確かめられた。即ち、これら4本の鞭毛は一体となって同一平面上で同調的に運動する。本藻はしばしば停止し、数ミリ秒後に通常の遊泳状態にもどることをくり返して行うが、この時1本の鞭毛は他の3本と異なる動きを行なっており、この時の運動に鞭毛の配列が反映している。 2.Pterospermaと系統的に近縁であるとされるPyramimonas2種について調査した。P.parkeaeでは繊毛型の有効打と回復打があり、典型的な緑色植物の平泳ぎ型鞭毛運動を行う。ところが、P.amyliferaは、鞭毛前方に運動して遊泳するにもかかわらず、平泳ぎ型ではなく、鞭毛の動きはPterospermaに近い。このようなパターンは、他にOltmannsiellopsisでもみられた。Hafniomonasは、プラシノ藻ではないが、平泳ぎ型を行う近縁属の一種であることが観察された。 このように、同属内でプラシノ藻類の進化の途上で運動パターンが鞭毛型から繊毛型に変化していることが強く示唆される。
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