バフンウニ未受精卵ゼリ-中の精子先体反応誘起に関与する主物質、フコ-ス硫酸タンパク質複合体の構造解析研究およびその産生細胞の特定に関する研究を進め次のような知見を得た。(1)フコ-ス硫酸タンパク質複合体(FSG)はフコ-ス硫酸を主成分とする糖鎖(ガラクト-スも副主成分として含む)に結合している分子量40万以上と考えられるタンパク質とこれにジスルフィド結合で結合していると考えられる258KDa、237KDa、120KDaタンパク質から構成されている。 (2)FSGのタンパク質部分のジスルフィド架橋を2-メルカプトエタノ-ルで還元し、切断すると先体反応誘起能は未処理のFSGの半分に減少する。 (3)フコ-ス硫酸のポリマ-であるフコイダンはFSGによる先体反応誘起に阻害的に働かないことから、フコ-ス硫酸部分はFSGと精子の相互作用に関与していないと考えられる。 (4)FSG、FSGの糖鎖部分、FSGのタンパク質(258kDa+237kDa)部分に対して作製したマウス抗血清を用いた酵素免疫組織化学的研究結果から、FSGは卵巣中の卵母細胞の細胞質で合成され、卵形成の進行につれ、卵母細胞外に分泌されていくものと考えられる。 (5)FSGにより誘起ささる先体反応と平行して、精子細胞内にcAMP濃度の増加が認められるが、Ca^<2+>イオ ホォアA_<23187>によって誘起される先体反応にはcAMP濃度の増加は伴わないことから、cAMPは先体反応誘起のセカンドメッセンジャ-ではない可能性が考えられる。 (6)卵ゼリ-より精製したシアロ糖タンパク質は先体反応誘起も精子凝集誘起も起こさなかった。このことから、従来提唱されていたsperm-isoagglutinationという現象は先体反応を起こした精子同子の単なる会合状態ではないかと考えられる。バフンウニ卵ゼリ-から精製したFSGと物質的にはよく似たフコ-スを含む高分子成分がアカウニ、キタムラサキウニ、ムラサキウニ卵ゼリ-中に存在するが、抗原性は異なっていた。
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