研究概要 |
脊椎動物の神経分泌系は,いわゆる神経ホルモンを分泌することにより,個体のさまざまな生理機能の調節に重要な役割を果していると考えられている.しかし,神経分泌細胞による神経ホルモンの合成と分泌が,体外や体内の環境の変動に対応して,どのように制御されているかはよく分かっていない.そこで,本研究では光学顕微鏡を二次元の顕微分光測光機として使用し,個々の細胞のレベルでのホルモン合成活動をin situ hybridization法および免疫組織化学法で,ホルモン分泌活動を電位差感受性の蛍光色素を用いる膜電位測光法で,定量的に解析することを試みてきた.神経分泌細胞によるペプチド性の神経葉ホルモンの合成活動は,細胞質中のホルモン前駆体mRNAを,独自に開発した合成DNAを用いるin situ hybridization法で検出・解析した.本年度は以下に示すような結果を得ることができた. 1.マウスの個体発生に伴うバソプレシン前駆体遺伝子の発現の変動の解析:出生直後に,一過性に神経分泌細胞当りのバソプレシン前駆体mRNA量が増加することが分かった. 2.シロサケおよびヤマメの神経葉ホルモン前駆体をコ-ドするcDNAのクロ-ニングと塩基配列の決定. 3.ニジマスにおける環境の浸透圧の変化に伴う神経葉ホルモン前駆体遺伝子の発現の変動の解析:海水適応により発現が低下し,淡水適応により発現が高まった. これらの実験と平行して,光学的に神経分泌細胞の電気活動を測定するための測定装置を組み立てたが,デ-タ取得のための計算機プログラムの作成に時間がかかっており,遺憾ながら,まだ本格的にデ-タを取るまでに至っていない.
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