ストレプトマイシン(SM)生産菌の自己耐性は、主に、自己生産抗生物質を燐酸化する酵素によって担われている。筆者等は、既に、SM生産菌から二種類のSM燐酸化酵素(smk及びstra)遺伝子をクローニングし、そのDNA塩基配列を決定した。また、stra遺伝子がSMの6位のOH基を燐酸化する酵素をコードするのに対し、smk遺伝子はSMの3″位のOH基を燐酸化する酵素をコードしていることを明らかにした。本年度はさらに両遺伝子を用いて下記の成果を得たので報告する。 1.両遺伝子をそれぞれ放線菌で汎用されているハイコピープラスミドplJ702やplJ703に連結してSM生産菌に導入し、自己耐性能の向上やSM生産性への影響が認められるか否か調べてみた。その結果、両遺伝子の導入に伴うこれらの性質に顕著な差は認められなかった。 2.筆者らにより作製された実用抗生物質生産菌で複製可能なプラスミドベクターpSY30とメラニン色素産生遺伝子の構造遺伝子領域を利用したプロモーター検索用ベクターpML102を構築し、SM燐酸化酵素遺伝子のプロモーター領域を明らかにする研究を行った。その成果として、smk遺伝子のプロモーターは860bpのBC1I断片上にあることやその転写方向を決定した。さらに、決定したDNA塩基配列に基づいて-35領域と-10領域を推定した。 3.SM生産菌S.griseusHUT6037から培養経過に沿って全RNAを調整し、smk及びstrA遺伝子をプローブとしてノーザンブロットハイブリダイザーションによって細胞内における両遺伝子の転写量を測定した。その結果、後者は培養後期において多く転写されるが、前写はほとんど転写されないことがわかった。今後は、サイレントなこのsmk遺伝子の存在意義を明らかにすると共に、本菌のin vitro転写系を用いて両遺伝子の転写機構を解析する予定である。
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