長年停滞しているイグサの反収を飛躍的に高め得る栽培法を確立するためには、イグサの基本的生育特性を明確にし、従来の栽培技術を抜本的に見直す必要がある。本研究では、栽培イグサの基本的生育特性を明確にするために、栽培品種のみらなず、イグサ科植物の中でも外部形態と生育特性が類似したイグサ属野生植物をも供試し、主要な環境要因に対する形態形成の変化を調査するとともに、花芽形成を誘起する条件の探索を行った。 その結果、栄養生長に係わる形態形成特性としての分げつ性および茎の伸長性に関しては、1.分げつと茎伸長の最適水地温はともに25℃付近にあるが、分げつは伸長に比し、低温および高温の影響をより鋭敏に受けて低下すること、2.茎伸長量は湛水条件でも湿潤条件でも大差ないが、分げつの増加は湿潤条件下でより著しいこと、3.茎の伸長速度に昼夜での差異は認められないが、連続暗黒下では新芽であっても、その伸長は大きく抑制されること、また茎の伸長は強風によって抑制されること、4.最終茎長は分げつ列における位置(茎位)によって異なること、5.イグサ属植物の中では、土壌乾燥に対する茎形態の変化が比較的小さく耐乾燥的であること、等の基本的特性が明確になった。また、花芽形成については、従来、イグサが長日植物に分類されていることから、長日条件が花芽形成の第一義的要因とされていたが、本研究結果からは、1.分裂組織のある茎基部を10℃の低温に曝すことによって、短日条件下でも花序節が形成されること、2.長日条件でも15℃以上の水地温下では花序節が形成されないこと、3.40日間の低水地温処理で花芽形成が誘起され、処理開始後約70日で花序節の形成が認められ約1ケ月間持続すること、4.長日条件は低温による花芽形成を助長する二次的な要因であること、等が明確になり、自然条件下における着花の様相が合理的に説明できた。
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