研究概要 |
昆虫の季節適応の機構にかかわる生理的な性質が、きわめて高い遺伝的・環境的な変異性を示すことがわかった。コバネイナゴは成虫サイズ、幼虫期間に著しい地理的変異を示するが、これは齢数と相関している。齢数には遺伝的な変異があるばかりではなく、同一の遺伝子型においても、光周期に反応して変化する。短日は短翅化、長日は長翅化の効果を持つことが分かった。これはバッた亜目においては、最初の発見である。ミナミマダラスズにおいても翅型の決定に光周反応が関与しているが、長翅率は30世代にわたる人為選択によって正・負どちらの方向 にも変化させる事が出来た。しかし光周反応のパラメ-タにはほとんど変化が起こらなかった。短翅系と長翅系の交雑によって、翅型決定に与る遺伝子は複数であり、その1部はX染色体上にあると推定された。休眠の変異性は、亜熱帯のミナミマダラスズの卵を用いて証明された。25゚C,LD12:12において卵期20、50ー60、100ー110、>150日の4系統を選択してきた結果、20日系統では休眠率が低下し、その他系統では上昇した。モ-ドにも選択に対応した差異が生じた。したがって卵休眠は翅型と同様に、ポリジン系によって調節されていると思われる。卵期の長い系統は温帯のマダラスズに匹敵する休眠深度を示したから、自然選択によって亜熱帯の休眠から温帯での安定した休眠が進化する可能性が証明された。亜熱帯のクビキキリギス類においては、成虫休眠の光周反応が観察され、この群でも休眠が亜熱帯に起源していることが示された。 光周反応の根底にある測時機構の表現は、温度条件によって変異する。ヨトウガにいろんな長さの明暗周期を興えると、20゚Cと28゚Cにおいて共鳴効果が見られないが、中間の温度では、サ-カデアン的な反応が見られた。 このように、昆虫の季節適応の機構は極めて可塑性に富む、と結論される。
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