研究概要 |
1.觸角原基細胞由来の細胞系確立に関しては、従来の方法でほゞ、適当であることが判明したが、なおひきつづき改善に努めている。 2.5令5日目の幼虫から摘出した觸角原基を、発育時期の種々異なった幼虫体内に移植し、宿主幼虫が蛹または成虫に変態した後に取り出してその発育程度を檢当した。その結果、原基の発育変態はほゞ一義的に宿主体内のホルモン環境に依存しておこるものであることがわかった。 3.5令5日目の觸角原基を取り出して器官培養し、これに変態ホルモンを与えて、培養下で変態をおこさせる好適ホルモン条件を探った。主としてβーエクジソンの培養下原基に対する作用を調べ、幼虫から蛹への初期変態をおこさせるに適当なエクジソン濃度は、約1μg/mlであることが認められた。これは生体血液内のホルモン濃度にほゞ見合う値であった。また、同一濃度のエクジソンを与えても、それが変態開始への「方向づけ」に効果を現すまでの時間は、実際に変態の可視的形態変化がおこるのに要する時間の約2分の1であることがわかった。さらに変態が進み、蛹化から成虫化へ向うための好適条件は、5〜10μgという高濃度のエクジソンを短時間与えることであり、長時間与えるとかえって悪影響があらわれた。このような高濃度は生体ではありえないことなので、この点に関してはなお今後の檢討を要する。 4.ショウジョウバエ等で発見された、混虫ニュ-ロン特有の抗原物質(抗HRP抗体)が成虫觸角ニュ-ロンの発生・分化に際して出現するであろうとの予想の下に、これを細胞化学的方法(Jan 5,1982)によって檢出を試みた。しかし、蛹化直後の成虫ニュ-ロン発生初期には同物質がほとんど檢出できず、蛹後期の完成された成虫ニュ-ロンに至って確実に檢出された。神経発生過程の追跡という点では、通常のメチレブル-生体染色の方がより適当であろうと考えられた。
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