研究概要 |
1.カイコ幼虫の成虫觸角原基が、変態期間を経て成虫觸角となる過程およびその間の神経細胞の発生について、種々の方法により研究した。 2.幼虫觸角には、計13個の感覚子に52個の感覚神経細胞が分布し、それらの軸索は2本の神経索となって脳へ向かっている。 3.幼虫期の原基は多列上皮構造であるが、前蛹期に反転して袋状の蛹觸角となる。蛹化直後の觸角上皮は単層構造となり,その中に成虫神経細胞がすでに分化しはじめている。しかし軸索はまだ伸びていない。 4.蛹化12時間目ごろから成虫触角の形態形成運動が開始され、これに伴って成虫神経細胞も軸索を伸ばして2本の神経索に合流する。このころ幼虫神経細胞は退化消失してしまうので、幼虫と成虫の各神経細胞の交代がおこる。タバコスズメガで見られた「蛹神経細胞」は存在しない。 5.幼虫の原基を摘出し、これを他固体幼虫を宿主として移植した。発育時期の異なる宿主に移植された場合,原基は移植時の発育程度にかかわらず、ほぼ宿主の体内環境に従って発育・変態を行った。 6.幼虫の原基を摘出し、これを種々の濃度のβ-エクジソンを加えたGrace培養液で組織培養した。少なくとも蛹化初期の状態までは原基を培養下で発育変態させることが可能であり、そのための好適エクジソン濃度はほぼ生体血液内濃度に近い値であった。成虫触角も培養下でほぼ形成されたが、クチクルは形成されず神経細胞も確かめられなかった。 7.摘出した原基を細断または酵素処理して組織を分解し、これを培養して細胞培養下での細胞系の確立と神経細胞の分化とを試みた。種々の培養液のうちMGM448液が最も好結果を得た。細胞の増殖形態は4種類見られたが、継代による細胞系の確立はまだ成功していない。しかし分散して増殖した細胞群の中から、明らかな神経細胞が分化して来たので、培養下での神経細胞分化は成功したと考えられる。
|