明暗各12時間に設定した人工気象室において、予め無硝酸培地に生育させた大麦幼植物に照明点灯時及び消灯時に硝酸塩(濃度は1.8mMで0.2mMの亜硝酸塩を含む)の供与を開始する2系列の実験を設け、36時間にわたって硝酸還元酵素を誘導し、各明暗12時間ごとの根部及び茎葉部におけるin vivo硝酸還元量並びに根部と茎葉部の相互の還元態窒素の転流量を、^<15>NO^-_3の利用により、見積った。同時にNAD(P)H硝酸還元酵素とNADH硝酸還元酵素のin vitro活性の変動を調べ、次のことが明らかとなった。 (1)根部のin vivo硝酸還元量は明期より暗期に多く、茎葉部のそれとは逆であった。(2)硝酸供給直後の12時間の間では、特にこの間が暗期の場合に、根部は硝酸還元の主要な器官であったが、その後は茎葉部の貢献度が高まり、特に明期では80%以上に達した。(3)根部のin vivo硝酸還元量が減ると茎葉部のin vivo硝酸還元量が増え、そしてこのときには還元態窒素の茎葉部から根部への節管転流量が増えた。(4)硝酸塩の導管輸送量の減る暗期では、還元態窒素の導管輸送量が増えたが節管再転流量は減った。(5)根部ではNAD(P)H硝酸還元酵素とNADH硝酸還元酵素は同程度存在したが、茎葉部では大部分がNADHタイプの酵素であった。(6)NAD(P)Hタイプの酵素も根では機能していると推察された。 以上のように、硝酸還元同化は、根部ではNAD(P)H硝酸還元酵素とNADH硝酸還元酵素、茎葉部ではNADH硝酸還元酵素のはたちきに依存するが、これらの酵素のはたらきを通して生成される還元態窒素に関して、根部と茎葉部は相互扶養関係にあり、さらにこの関係は各々の器官の還元態窒素の要求度に応じて、各器官の硝酸還元力と導管及び節管を経由する還元態窒素の転流を通して調節されていると推察される。そして根部での硝酸還元は、夜間や硝酸塩供給直後などの茎葉部の硝酸還元力の低いときに特に重要であると考えられる。
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