中性植物のオオムギ(Hordeum vulgare L.)と塩性植物のアッケシソウ(Salicornia virginica L.)の切断根を用い、マルチコンパ-トメント・トランスポ-トボックス法により、塩化ナトリウム高濃度条件下での各種イオンの吸収と移行について検討し、昨年度、その結果を報告した。その中で、アッケシソウ根においては、カルシウム共存条件で、高濃度の塩化ナトリウムがカリウムの吸収・移行を促進するという新しい知見を得た。 本年度は、この結果を確認するとともに、各種代謝阻害剤を用いて、高濃度塩化ナトリウムによるカリウム吸収促進現象の機作を追究した。その結果、cccpおよびDNPの添加によって、高濃度塩化ナトリウムによるカリウム吸収の促進は明らかに抑制されることが認められた。一方、バナジン酸の添加はこのカリウム吸収促進効果に全く影響を与えなかった。したがって、カルシウム共存条件での高濃度塩化ナトリウムによるカリウム吸収促進現象は植物根のエネルギ-代謝に関連するものと推測された。しかし、バナジン酸添加実験の結果から、この現象はATPase活性には関係しないのではないかと考えられる。 上述の結果は、塩性植物アッケシソウが高塩条件下でカリウム栄養を維持する仕組みに新しい視点を与えるものであり、植物の塩類耐性機構の解明に重要な端緒となるものと考えられる。 次年度では、このアッケシソウ根における高濃度塩化ナトリウムによるカリウム吸収促進現象について、さらにその機作を究明し、植物の塩類耐性機構におけるカリウム栄養の関与について検討する。
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