ラットの血漿コレステロ-ル(CHOL)濃度は、タンパク質源としてカゼイン(CAS)を与えると高く、分離大豆タンパク質(SPI)を与えると低くなる。申請者は、血漿CHOL変動が特異的にHDL(高密度リポタンパク質)画分で観察されることを見いだしているので、本年度は、HDL-CHOL濃度変動の原因を明らかにすることを目的に研究を行い、以下のような実験結果を得た。 血漿CHOL濃度が各タンパク質源に固有の定常状態にある時、群間の血漿CHOL濃度の差が、HDL画分で特異的に観察されることを再認識した。この後、CAS飼料からSPI飼料に切り替えるとHDL-CHOL濃度が急速に低下し、逆にSPI飼料からCAS飼料に切り替えるとHDL-CHOL濃度が急速に上昇した。しかも各群のHDL-CHOL濃度は、飼料交換後3日目で、既に各タンパク質源に固有の定常状態に到達した。HDL-CHOL濃度が急速に変動する時、HDLアポリポタンパク質濃度も並行して変化しており、この変動の主成分が、アポA-1であることをSDSゲル電気泳動法によって明らかにした。HDLアポリポタンパク質の合成速度を〔^3H〕Leuの取り込みを指標に測定したところ、合成速度はCAS飼料群で高いものの、有意差は認められなかった。従って、HDLアポリポタンパク質濃度が有意に高いCAS飼料群では、アポリポタンパク質、特にアポA-1の合成速度が相対的に高く、分解速度が相対的に低下しているものと考えられた。 これらのことから、本現象の発現には、HDLアポリポタンパク質代謝の変動が先行しており、CAS飼料を与えると、HDL-CHOLの担体であるアポA-1の血漿中からのクリアランスが低下するために、血漿CHOL濃度が有意に高くなるものと推定した。
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