本研究は、大豆タンパク質のもつ潜在的生理機能の探索を目的とした。 1.インスリン作用増強ペプチドの同定:胆汁酸結合性の37KDaタンパク質は、ラット脂肪細胞において脂肪酸の遊離を阻害することより、インスリン作用の増強効果をもつことが示された。37KDaタンパク質を単離し、その一次構造解析より、大豆グリシニンの酸性サブユニットがこの生理作用を担うタンパク質であると同定した。酸性サブユニットのトリプシン分解物中にもインスリン作用増強活性があり、生じたペプチドをHPLCにより分画して活性ポプチドの検索を行っているが同定には至っていない。しかし、酸性サブユニット中の胆汁酸結合部位は、残基114〜161の疎水性部位に存在することが明かとなり、胆汁酸結合能とインスリン作用促進活性との関連について研究を進めている。この生理作用を有するタンパク質は、大豆タンパク質以外にエンドウ種子タンパク質にも存在し、大豆グリシニン酸性サブユニットより調製したウサギ抗血清と交叉する成分に活性のあることが確認された。 2.生理作用機序:大豆グリシニン酸性サブユニットのもつインスリン作用増強効果の作用機序を以下の実験により検討した。インスリンは脂肪細胞に取り込まれ分解されるが、単離した酸性サブユニット及びそのトリプシン分解物はインスリンの分解を抑制し、かつインスリンの細胞への取り込みを約50%促進していることが明かとなった。また脂肪細胞での主要なインスリン作用である脂肪細胞へのグルコースの取り込み活性に及ぼす酸性サブユニットの効果を検討したが、酸性サブユニットに糖輸送を促進する効果は見い出せなかった。現在、酸性サブユニットはインスリンの細胞内への取り込みを促進し、その結果、細胞内のホルモン感受性リパーゼ活性に影響を及ぼし脂肪酸の遊離を抑制しているものと考え、この生理作用機序の理解にむけて研究を行っている。
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