大豆蛋白質は動物性蛋白質と比較し顕著な脂質代謝改善作用を有する。胆汁酸吸収阻害に基づく血清コレステロ-ル濃度低減化能とホルモン作用を修飾効果とが考えられる。本研究は脂質代謝に関与するインスリン作用に焦点を当てそれを修飾する大豆蛋白質の同定とその作用機構を明らかにすることを目的とした。大豆蛋白質を分画し、ラット脂肪細胞の脂肪酸生成に対するインスリン作用に及ぼす大豆蛋白質成分の成果を検定することによりグリシニン酸性サブユニットA_<1a>とA_2にインスリン作用促進効果のあることを見いだした。A_<1a>のトリプシン分解物(A_<1a>/TR)に強い活性が認められたが、活性ペプチドの一次構造の同定には至らなかった。エンドウ種子レグミンの酸性サブユニットも同様な効果を持つことを明らかにした。これら蛋白質は強い胆汁酸結合能を有することより、これらがコレステロ-ル濃度低減化にも関与していることが明らかとなったが、この作用とインスリン作用修飾効果は蛋白質上の各々独立の部位によりもたらされる作用であった。ラット脂肪細胞におけるインスリンに対する初期応答反応である糖輸送にA_<1a>/TRは何等の効果も示さなかった。しかしながら、インスリンに依存する脂肪合成と脂肪酸生成に対しては感受性・応答性を共に増強した。A_<1a>/TRはインスリンのインスリン受容体への結合に影響を与えなかったが、細胞内に取り込まれるインスリン量を著しく増加した。これは内在化したインスリンの分解をA_<1a>/TRが抑制した結果であった。これらの効果は生理的温度下でのみ観察され、インスリン及びインスリン受容体の内在下の生じない低温下では認められなかった。それ故、内在下したインスリン濃度の増加が脂質代謝に関する代謝過程の変動をもたらすものと推定される。培養細胞系での実験も計画中であり、食品蛋白質の持つ生理機能に関し新たな展開を計りたい。
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