コリネフォルム細菌は、その属レベルの分類が主に化学分類学的性状を基準になされている。特に細胞壁のペプチドグリカン構造、メナキノン組成、菌体脂肪酸組成、DNAのGC含量が重要な分類指標となっている。コリネフォルム細菌について、属以上のレベルの分類体系を遺伝子の面から評価する手法として、保存性の高いリボソ-ムRNA(rRNA)の中でも最も低分子の5S rRNAの塩基配列の解析を試みた。堀と大沢の方法に従い、朴らのデ-タを踏まえ、11株のコリネフォルム細菌及び類縁細菌の5S rRNAの塩基配列を決定し、分類学的評価を行った。朴らはコリネフォルム細菌を5S rRNAで4つのサブグル-プに分けているが、本質的にはそれに沿った結果が得られた。その結果、 Rhodococcus、Nocardia、Mycobacteriumは、細胞壁がメソジアミノピメリン酸、アラビノガラクタン、ミコ-ル酸を含有するということで化学分類的にはCorynebacterium属との近縁性が示唆されていたにもかかわらず、すべてがCellulomonas、Arthrobacterなど、非メソジアミノピメリン酸の細胞壁のコリネフォルム細菌のサブグル-プに含まれ、Corynebacteriumは、1属で独立したサブグル-プとなることがわかった。また、Brevibacteriumは属の特徴として特異な塩基配列を有することが確認さ れた。 コリネフォルム細菌の分類体系が混乱してきた原因の一つは、分類学研究に供試されている確実な(authentic)菌株の数が少ないことである。そこで本研究では未分類のコリネフォルム細菌を収集して化学分類学的特徴づけを行い、Tsukamurella属やArthrobacter nicotianae グル-プといった今までに分離例の少ない細菌群を見いだすことができた。これらは今後本細菌群の系統分類の研究を進める上で大いに役に立つものと考えられる。
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