研究課題/領域番号 |
63480066
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松谷 武成 東北大学, 農学部, 助教授 (90134030)
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研究分担者 |
今島 実 国立科学博物館, 動物研究部, 部長 (30000110)
尾定 誠 東北大学, 農学部, 助手 (30177208)
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キーワード | ポリドラ / 着生 / 穿孔 / ホタテガイ / Polydra variegata |
研究概要 |
昨年度、マダラスピオPolydora variegata幼生の飼育に初めて成功し、幼生の初期成長と着生・変態にいたる形態変化を明らかにした。本年度は、さらに幼生の着生期に出現する球状器官に注目し、その特性を組織学的に検討するとともに、幼生のホタテガイ貝殻への穿孔過程を観察した。また、Polydora属の防除方法について総合考察を行うため、過去に採取していた網走以外の海域のホタテガイについて、Polydora属の穿孔状況を調べた。 1.球状器官:マダラスピオ幼生の着生期に第5剛毛節に出現する球状器官は、変形剛毛の腹側に左右一対存在し、直径は約40μmで、10前後の細胞から構成され、核は細胞の周辺部に偏在し、細胞質中には顆粒が充満していた。球状器官は、形態的には各体節の粘液腺と類似するが、組織化学的特性と、内部の顆粒の微細構造が各体節の粘液腺とは異なることから、通常の粘液細胞とは異なる機能を果たしている可能性が示された。 2.穿孔過程:着生した幼生は、3〜4日で穿孔を開始した。初期孔道は先ず、貝殻表面に形成した粘液管の中央部から垂直に掘られ、その後貝殻面と平行方向に拡張されていった。成体の孔道内表面に多数認められる小孔は、初期孔道にはほとんど観察されず、孔道内表面は溶解したような痕跡がSEM観察によって明らかになった。しかし、孔道内の粘液管には貝殻の破片が多数認められた。 3.北海道、東北地方沿岸のホタテガイに対するPolydora属の浸蝕状況:標津、野付のホタテガイ貝殻には、P.convexa,P.concharumが、平内のホタテガイ貝殻には、P.websteri多数観察された。P.variegataはほとんどの調査地点のホタテガイ貝殻に存在していた。ホタテガイ貝殻の軟X線写真を観察した結果、ポリドラ属は種によって特徴的な孔道の形態を示すことが明らかになり、ホタテガイ貝殻に穿孔しているポリドラ属の種と穿孔状況の概略を把握するには軟X線写真の利用は極めて有効であることがわかった。 以上、本年度も含めて、これまで、網走海域を中心とした本邦北部海域における穿孔性多毛類ポリドラ属の分布、主要な種の生活史、および新種マダラスピオの着生・変態・穿孔機構の解明をすすめてきた。そして、これらの知見をふまえ、総合報告書において穿孔性多毛類ポリドラ属のホタテガイに及ぼす影響と、その防除の可能性について考察した。
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