研究概要 |
本研究により、網走海域の放流ホタテガイに穿孔するポリドラ属なかで、主要な3種Poldydra variegata,P.websteri,P.choncharum について、その生活史と穿孔状況の特徴を明らかにした。そして、このなかで網走海域においては周年にわたり優占種であり、ホタテガイに対する影響が最も大きいと考えられる、新種マダラスピオ P.variegataの成長と繁殖生態、卵形成の詳細を解明した。さらにP.variegataの防除を考える上で重要な、その着生、穿孔機構を検討するため、P.vavriegataの幼生の飼育を試みた。そして、その成果をもとに、P.variegata幼生の着生、穿孔にいたる初期成長と形態変化の特徴を明らかにすることができた。さらに、着生期まで飼育した幼生を用いて、着生時の基質選択性と初期穿孔機構の一端を明らかにすることができた。そして、最後に、網走海域との比較の意味で、北海道、東北地方沿岸のホタテガイに穿孔するポリドラ属を調査し、従来、P.ciliataとして漠然と認識されていたポリドラ属の各海域における種の組成(P.ciliataは確認されなかった)と侵蝕状況の実体を把握した。 このように本研究では、とくに網走海域のP.variegataの生殖と着生・穿孔機構に関して、いくつかの知見を得、これらの結果から、以下のような、P.variegataの防除方法を考えた。 1)ホタテガイの放流時期とサイズの調整が可能なら、P.variegats産卵期が過ぎてから放流する。そして、穿孔部位が貝殻の閉殻筋付着部位と重なると斃死にいたる可能性が報告されているので、ホタテガイの収穫時までの成長を考慮にいれ、たとえP.variegataが貝殻縁辺部に着生・穿孔したとしても、収穫時にその部位が閉殻筋と重ならないようなサイズで放流する。 2)P.variegataの幼生は、ホタテガイの殻の種々の部位に対して選択性を示さない。したがって、放流ホタテガイの貝殻の縁辺部でP.variegataの穿孔が著しいことは、縁辺部以上に着生したP.variegataの生残が少ない可能性もある。ゆえに、この種は繁殖力は大きいものの、逆に、生息に適した環境条件の幅はかなり狭い可能性がある。その場合、放流漁場の海底の物理的環境および生物的環境などが微妙に変化した、あるいは変化させた場合、ホタテガイ貝殻へのP.variegataの穿孔数が大幅に減少する可能性も考えられる。
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