研究概要 |
魚類の変態を定義し,その意義を特に生残への適応との関連において評価することを目的に,形態学的および生態学的研究をおこなった。結果の概要は次のとおりである。 (1)魚類の変態は非直達型の発育をする要素の仔魚期から稚魚期への移行期における体制の変換的事象として定義されるもので,厳密には,仔魚期末期に位置づけられるのが妥当である。従って変態の事例は種によって大きく異なり,ウナギ型,イワシ型,カレイ型などと類型化されるものは最も著しい形態的・生態的変化を伴なう典型を示すにすぎず,魚類の変態とは初期生活史戦略としての広い基盤を有する普遍的現象であるといってよいことが結論された。 (2)ハタハタ科魚類の初期生活史研究によって,変態の起源,すなわち直達型と非直達型の発育の分化についての知見が得られた。本科では卵径における形態的分化ではなく,卵期の物理的環境の違いが二型分化の鍵要因となっており、変態現象の機能を考える上で大きな示峻を得た。 (3)ニギス亜目魚類4科13種の比較初期生活史研究によって,近縁群内における直達型から非直達型までの多様な発育戦略の実態を明らかにするとともに、最も顕著な変態をおこなうソコイワシについて,変態を前後して全体制的な変換の種相を解剖学的・組織学的に明らかにした。特に一部の骨格要素において従来知られていなかった硬骨と軟骨の可送的移行が変態との関連で確認され,変態の持つ特異性が注目された。 (4)イセゴイにおけるレプトセファルス幼期の変態過程の研究により,日令を軸にすると,変態現象の生態的・形態的特性がより明瞭にとらえられ,今後の変態研究をおこなううえで貴重な知見が得られた。 (5)生残への適応については具体例が集積されたが,定量的な評価については今後の課題として残された。
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