本年度は、換気量算定の基礎資料を得ることを目的とし、成牛6頭を対象に寒冷環境における産熱量をマスク法を用いて測定し、牛の産熱量と熱環境との関係を考察した。 北里大学内の簡易牛舎において日本短角雌成牛6頭を供試し、1988年11月より1989年1月までの間、寒冷な気象条件を選び計7回実験を行った。供試牛は測定日の前日、夕方の給餌が終わってから係留を開始し、採食前の早朝に呼気を採取した。呼気は、マスクを併用して気密性の高い塩化ビニル製の袋(自作)に一頭当り約200〜300l採取した。呼気および畜舎内空気の酸素濃度を磁気式酸素分析計で測定し、Mclean(1972)の方法を基に呼気中の酸素消費量から産熱量を求めた。産熱量を体表面積で除し、それと熱環境との関係を調べた。畜舎の熱環境要因として、畜舎内外の気温および湿度を1箇所ずつ、および天井・壁・床の表面温度計7箇所を係留開始とともに10分毎に測定した。また呼気採取時には赤外線放射温度計を用いて牛体被毛温度を1頭当り3箇所測定した。 放射熱損失に影響を及ぼす牛体周囲の平均表面温度は舎内気温との温度差が2°C以下であったため、舎那須気温を環境温度の指標として用いた。-5°Cから+5°Cの環境温度(Ta;°C)に対し牛の産熱量(HP;Kcal/m^2hr)は、HP=1.2Ta+68の関係となった。相関係数(r)は0.32と低く、今回の測定範囲では環境温度が産熱量に及ぼす影響は少なかった。環境温度と被毛温度(Th;°C)との関係は、Th=0.9Ta+13(r=0.86)となり、環境温度と被毛温度との差は約13°Cとほぼ一定であった。これらのことより、環境温度の低下に伴い牛は体内熱抵抗および被毛熱抵抗を増大させ、その結果産熱量が減少したものと推定され、得られた産熱量は牛にとって快適な熱的中性圏の値と推定された。産熱量が増大する低臨界温度は-5°Cより低い環境温度にあるものと推定された。
|