本研究では海産生物由来の生理活性物質であるオカダ酸とカリクリンの平滑筋収縮機構に対する作用を検討し、以下の知見を得た。 (1)蛍光色素fura-2を用いて平滑筋の収縮と細胞内Ca濃度を同時に測定した。その結果オカダ酸、カリクリンは細胞内Ca濃度の増加を伴わずに収縮を発生させることが示された。 (2)オカダ酸、カリクリンは平滑筋のミオシン軽鎖をCa非依存性にリン酸化した。このリン酸化は、既知のリン酸化酵素、すなわちミオシン軽鎖キナーゼ、C-キナーゼによるものではなかった。 (3)オカダ酸、カリクリンは部分精製した脱リン酸化酵素(I型、IIA型)を阻害した。 (4)オカダ酸とカリクリンの効力比を検討すると、カリクリンはオカダ酸に比べIIA型を強く抑制したのに対して、I型に対しては同程度の阻害効果を示し、脱リン酸化酵素に対して特異性を示した。 以上の成績から、オカダ酸およびカリクリンは脱リン酸化酵素を阻害することにより平滑筋ミオシンをリン酸化し、Ca非依存性に収縮させるものと考えられた。平滑筋活性化作用はオカダ酸に比べカリクリンの効力が強いことから、生理的な収縮-弛緩反応に関わる脱リン酸化酵素はIIA型であることが考えられる。 さらに、平滑筋以外のカルシウムあるいは基質蛋白質のリン酸化により制御を受ける幾つかの機構に対する作用についても検討した。 (1)オカダ酸、カリクリンは血小板のトロンビン、コラーゲン、Caイオノフォアによる凝集を抑制した。この抑制作用は細胞内Ca濃度の減少を伴わずに発現した。 (2)オカダ酸は血管に分布する交感神経終末からのカテコラミン分泌を抑制した。 (3)オカダ酸、カリクリンを神経細胞および血管平滑筋細胞由来の培養細胞に適用すると、本来の形態を維持できず、細胞は球状に変化した。この作用は、Caチャネル阻害薬、cAMP増加薬、cGMP増加薬で拮抗されなかった。 これらの作用機序については現在検討を続けているが、オカダ酸、カリクリンが脱リン酸化酵素の阻害剤であることから種々の機能蛋白が非特異的にリン酸化されていることが予想され、これらの特定が今後の課題であると考えている。
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