Okadaic acid(OA)とcaluculin A(CLA)は海綿から抽出された発癌性の生理活性物質であるが、これらの物質の平滑筋収縮制御機構への作用を検討した。OAは低濃度では平滑筋収縮を非選択的に抑制し、高濃度では逆に収縮作用を示す。他方CLAは低濃度で一過性の弛緩作用を示した後、直ちに収縮を発生させ、この二面作用は明確に分離できなかった。さらにOAとCLAは平滑筋のイオンチャネルを開き、細胞内カルシウム量を増加させたが、この増加は収縮発生に遅れて起こり、またこの収縮はCa不在下でも見られたので、細胞内カルシウム量増加が収縮の原因とは考えられない。これらの物質による収縮作用はミオシンの燐酸化を介するにもかかわらず、Caとカルモジュリンには依存しなかった。これらの成績からOAとCLAは燐酸化酵素活性の増加あるいは脱燐酸化酵素の阻害により収縮を起こすことが考えられた。そこでこれらの酵素活性への作用を検討したところ、OAとCLAはミオシン軽鎖キナ-ゼとCキナ-ゼ活性には影響しなかった。他方OAは低濃度で2A型、高濃度で1型の脱燐酸化酵素活性を阻害し、CLAは低濃度でこれらの脱燐酸化酵素活性をともに阻害した。従って高濃度のOAとCLAの収縮作用は1型類似の脱燐酸化酵素活性の阻害によりCaとカルモジュリンに依存しないミオシン軽鎖キナ-ゼの活性を相対的に増加させ、収縮を起こすものと考えられる。しかし平滑筋から抽出した脱燐酸化酵素は耐熱性抑制蛋白質(inhibitor2)に非感受性であり、この点からは2A型に分類される新しい型である。低濃度OAの平滑筋弛緩作用はcAMPの作用と類似し、cAMPはcAMP依存性キナ-ゼの活性化により平滑筋を弛緩させる。従って低濃度のOAとCLAは2A型脱燐酸化酵素活性の阻害によりこのキナ-ゼの活性を相対的に増加させ、弛緩を起こすものと考えらえる。またOAとCLAは初めて見出された脱燐酸化酵素阻害剤として有用であることが証明された。
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